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紅玉いづき「雪蟷螂」を読む

雪蟷螂 (電撃文庫)雪蟷螂 (電撃文庫)
(2009/02)
紅玉 いづき

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 この人は女しか書く気がないのだろうな、と思いながら読んでいた。
アルテシアとルイの気高さに比べ、男どものなんと弱弱しいことか。これが草食系男子というものか。トーチカはまだしも、オウガの屈折は結局マザコンから来るのか。この話の中ではむしろ普通過ぎてほっとするぐらいだが。
 恋と愛は違うものだと思う。恋は「愛するものさえ噛み殺すとされる激情」をはらむものだと納得はいくが、愛の形はそれに留まるにあらず。相手を喰らうだけが愛ではなく、包み込むのも愛、場合によっては相手を捨てることさえ愛である。アルテシアとトーチカの間にあるものは恋で、オウガとルイの間にあるのは愛だろう。結局アルテシアとルイを分けたのは、恋と愛の違いだったのではないだろうか。アルテシアに足りなかったものは恋だったとしたら、ルイにも実は愛が足りていなかったのではないだろうか。彼女が男遊びに興じていたのもそのためだったに違いない。生まれも名前も奪われた彼女は、自分が心から愛せる人、自分を心から愛してくれる人を無意識のうちに求めていたように思う。もちろん本当に愛を向けて欲しかったのはアルテシアなのだろうが、彼女は女性であり、ましてや将来ミルデに嫁ぎ、フェルビエの女としてその愛を全て族長に向けなければならず、ルイもその覚悟は痛いほど理解している。だからこそ彼女はアルテシア以外にその愛の矛先を求めねばならなかったのだ。オウガのあのマザコンっぷりや、初夜のときに「あの女の方がまだ嗜好にあっている」と言っているのをみると、意外とルイのことを心から愛してくれそうな気がする。ルイが推測していた彼の面子というのは、報われなかった母親のことを延々と根に持ってることが恥ずかしいってことじゃないだろうか。だとすると彼の感情は全部ルイの手の内にあるな。案外尻にしかれる可能性だってあるだろう。
 それと誤植が酷かった。検索すると良く出てきた「永遠生」「永遠性」の間違いはわりと気にならなかったのだが、私はむしろ登場人物の取り違えが気になった。
p259『しかしガルヤはそれを選択しなかった。』のガルヤはミルデだろう。
p277で、直前で『ルイがアルテシアを見上げ』てるのにすぐあとで『ルイは呆然と見下ろしていた』っていうのはどう考えてもおかしい。
登場人物がこれだけ少ないにも関わらず取り違えるというのはどういうことだろうか。まあ所詮ライトノベルの編集だからな、と受け取れということだろうか。といっても『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』とかもあるからなんとも言えないのだが……

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2009.07.23 | Comments(0) | Trackback(1) |

ゴーゴリ「外套」を読む

あとがきに、平凡な主人公アカーキイ・アカーキエウィッチについて「こうした一顧の値打のない人間でも、人道主義的な愛と、尊敬にすら値することを強調している」とある。でもこういう人間が悲惨な目に遭う話というのは、現代、ないし近代のイデオロギーという概念のある世界だと、その原則や論理展開に違いはあれど必ず社会風刺、社会批判に行く気がする。このあとがきから察せる通り、この作品内では彼に対する真摯なまなざしこそ向けられど、それを通してこのような愚直だが真面目な男を死に追いやった社会に対しては批判の矛先が向けられることは無い。著者するも救済の手を差し伸べないことに、つまらない人間にそこまで親切でいられるほど社会は甘くない、という事実を改めて突きつけられて非常にショックだった。

しかし、登場人物の行く末を作者の主張のための道具とせず、あくまで主人公のありのままの感情を書くのみにとどめたことで、かえってそれが主人公の哀れさ、そしてある種の気高さが感じられた。彼は誰にも振りむかれなかったが、話ベタで、周りにむとんちゃくで、写本が好きで、そして数ヶ月かけて手に入れた外套を誇らしげに着ていたアカーキイ・アカーキエウィッチは確かに存在していとことが実感できた。

鼻はまたいずれ。

2008.12.10 | Comments(0) | Trackback(0) |

久々に本を買う

よつばと8巻
ゼロの使い魔14巻
とらドラ!1巻
文学少女 神に臨む作家上下

現在とらドラまで読了。
とらドラはまんま某サトステの影響である。
文学少女もフルメタも終わるし、そろそろ新しいのに手を出さなければと思ったので。

エピローグでちょっと微妙だったけど、クライマックスは非常に良かった。
予想以上に現実感あふれる描写が好み。これ読んでると飯作りたくなるね。

しかしこれシリーズ化すると面白いんだろうか…とりあえず次も買う。



あとなんか某所にアニメ化追悼スレとか立ってるけど、禁書よか絶対マシだと思う…
というかスタッフ的には今期ガチ作だと思うんだけどなあ…

2008.09.09 | Comments(0) | Trackback(0) |

ヤマト運輸さんに無理して今日運んでもらう

そして明日はテスト。

倉本 倉田の蔵出し倉本 倉田の蔵出し
(2008/07/08)
倉田英之

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 この本は、世間でいうところ、いわゆるオタクという種に属するある男のエッセイ集である。
彼のような男、最近では女性も増えてきたが、そのような人種は世界中どこにでもいるし、ましてやオタク大国日本に住む我々にとって、そのような人種はたとえあなたがお近づきになりたいと思わなくても、存在としては非常に馴染み深いものに違いない。
さらに昨今のオタクブームを経て、彼らの生態や生き様を描いた本は、巷を探せばいくらでも出てくる。

 しかし、しかしだ。
 かつてこれほどまでに本をDVDを、エロゲーを、二次元(または擬似三次元)を愛した漢がいただろうか。


 同じDVDを19枚、シリーズを通しては49枚も買い漁り、
 本を愛し、本に人生を捧げることを決意し、
 抱き枕とフィギュアとアイドルDVDに囲まれ、「女は紙かjpgで十分」だと言い切る。

 なぜこのような所業を為すことが出来るのか。

……答えは唯一つ。彼が倉田英之だからだ。



……だめだもうこんな中二病文章続かねぇ。



 もうこれはオタキング認定でいんじゃね?先代はご隠居なされたし。それくらいのインパクト。
だって表紙からありえん。いやこれくらいの猛者は普通にいる、というかそれが身の回りにいる自分もどうかと思うが、流石に毎日3枚DVDは買わねえ。というかDVDBOXは一枚換算ですかそうですか。
「女は紙かjpgに限る」とかいいつつ巻末でインタビュアーやってる本田透氏とかに比べれば遥かに出会いというか可能性というか分岐点はあったんじゃないか、そういう意味では最後の「おたく」遺伝子、世に言うバブル世代の末裔であり、なおかつ現代のオタク跋扈の時代にまで適応したスーパーオタク人なんじゃないかと思った次第。そういう意味でも正当な後継者。
今の若人にとっての理想のオタク像、理想のオタク生活を体現している。脚本家としてもここ数年軒並みヒット作を連発してるし(ガンソード以外)、これはオタク勝ち組じゃね?とはいってもDVD集め始めたの案外最近の話だったり、抱き枕とかフィギュアも本当に最近買い始めたようなので、案外割りと純粋な本オタク的な流れで来たのが、2000年以降のオタクムーヴメントの中でそのポテンシャルが開花し、ただでさえ高かった物欲レベルが跳ね上がった……いやその前も普通にモノ買ってるよねこの人。毎年ボーナスが全部トんでるわけで。しかも仕事も毎年増えてるっぽいのに。単純に使えるお金が増えてきたから?やはり勝ち組。

 しかしさりげなく文章の端々にこれまでの人生での苦労というか、黒い過去的なものもあって、そういう意味でも読み応えは十二分であります。最初のページから意味深だったし。自分のイタイ過去を語るというオタククリエイターは、イマドキ校庭の隅に開いた穴から出てくるアリンコぐらいたくさんいるのですが、ネタと変人・変態まみれの作品の中にしばしば垣間見える、フィクションからの影響だけでは説明しきれないほど濃厚な瞑(くら)いキャラクターの感情や展開に、天井にまで届くほど積み上げられた本とDVDとエロゲーの山の奥に、いったい何が隠されているのだろうかとずっと疑問に思っていたが、この本で少しばかりだがその秘められし一面を垣間見ることができた。
ここまで他人の作ったものに埋没する由緒正しきオタクであり、その膨大な知識量を生かして大量にネタを投入して作品を作っているのにも関わらず、出来た作品はもちろんネタも大いに入っているものの、同時に非常に独自性の強い、何年も語り継がれるほどの真の作品足りうる強度を持っていることが不思議でしょうがなかったのだが、やはりそういう人は経験値においても並々ならぬものを持っているんだな、ということを今更ながら実感した。
ここまで物欲にまみれているだけでも十分経験値あるだろ、なんて人もいるかもしれないが、単純に金を使う、ってだけならゲイツやら孫やらロックフェラーやらアラブの石油王やらの方が全然上なわけで、というか我らが倉田英之も所詮一平民に過ぎないのだから、それが作品の竜骨足りうる経験値として利用できるか、というと難しいと思うのだ。同じ平民レベルでさえこういう人、というかこういう部屋は20年前、それこそ宮崎勤のころにはおたくの部屋として一般的だったわけで。まあこの本読めば真に倉田英之がただもんでないことが分かる、そんな本です。





話はずれるが、割と倉田さん庵野監督に似てるような気がする。なんとなくだけど。

2008.07.11 | Comments(0) | Trackback(0) |

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