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絶賛乱読中

 光瀬龍『百億の昼と千億の夜』を読む。
気づいたら下宿の本棚に転がってた一冊。買ったことすら忘れていた。大学生協の古本市で買ったような。
 私はそれほどSFは読まないので、買ったときは特にタイトルとか気にせず、その場の雰囲気で選んだろう。あとで著者の光瀬龍が有名な人だと知って驚いた。

 いわゆる「SF的スケール」に満ち溢れた作品。SFというジャンルは、たとえその作者がアメリカ人であろうが日本人であろうが、得てして普通の小説ジャンルよりも西洋的世界観と東洋的世界観がない交ぜになりやすいように思う。その原因を、産業の急激な発達による自然破壊から地球環境を守るための取り組みや、二度の世界大戦、それが終了してもなお各地で相次ぐ紛争のなかで世界に澱のように横たわる倦怠感の根本要因を考えていく上で浮上した西洋哲学や価値観の矛盾とそれを打破するための東洋哲学・宗教の導入に求めるのか、もしくは――SFというジャンルならとりわけ重要な要因足りうるだろうが――20世紀のはじめに生まれ、その後の物理学、ひいては自然科学全体の発展、そしてその思想の根底に疑問を投げかけることになった量子力学の発見と、不確定性原理の解釈論に求めるのかは一概に決められる問題ではないだろう。しかし、両者はいずれも今私たちの目の前に厳然と存在する問題ではある。そして自然科学・人間科学・社会科学など学問という思想・様式を、作家の想像力をもってして縦横無尽に張り巡らせて構成されるSFというジャンルにおいて、それらから生み出される作品が、時に作者が意識せずとも東西の思想が垣間見えるようになるのも至極当然のことであるともいえる。逆にいえば、これら相反する根本原理を持つ二者の思想を融合させるのに、SFというジャンルは非常に相性が良い。というよりSF的アイデアやスケールを用いなければ、現時点の我々の知識では、とてもこれら両者の思想を合わせ理解することはできないのではあるまいか。そしてこの作品もまた、SFという西洋文化発の文化に東洋的思想を織り込もうとした作品であった。

 この作品は「寄せてはかえ」す、海の描写より始まる。海は百億、千億の昼と夜、くり返し変動しつづける諸行無常の象徴である。そのあと創世記の地球における生命の誕生が壮大なスケールで描かれつつ、一方で海はその間もただ寄せては返すことをくり返し、また昼がはじまり、また夜が来る。
 生命が誕生した後、太古の海で生活するある生物が見た謎の山脈。一朝にして海の底に沈んだ伝説の大陸アトランティスを追い求める稀代の哲学者、プラトンが辿りついた謎の集落エルカシア、そこで彼が見た過去の超王国滅亡の光景。国を、部下を、父を、そして愛する妻と子を棄ててまで救いを求めた悉達多が目の当たりにした、レイ(りっしんべんに刀)利天をはじめとした遥か光年を経た彼方の天上界――人の世を超越した極楽を襲う未曾有の危機と、五十六億七千万年ののちに人類を救済するはずの《弥勒》の存在に疑問を抱き、戦い続ける少女阿修羅王との出会い。辺境植民地エレサレムで最後の審判を解き、大天使ミカエルを見たというナザレの大工イエス。その在り様にただならぬ不安を感じる総督ピラトゥスとその部下セイント。そして裁きが下り、刑が執行されるその瞬間にイスカリオテのユダが見た、ゴルゴダの丘の奇跡。そして舞台は人間文明があとかたもなく消え去った遥か未来の地球へと移り、人類の、そして銀河系全生命の真実があきらかになる――

 繰り返すが、こうした途方もない壮大なスケールで物語が展開するのは、SFという特異なジャンルならではのものだ。だからこそ、こうしたSF的スケールに慣れていない人にとっては、最初はひどくとっつきにくいと思えるだろう。私もそれほどSF経験があるわけではないが、例えばグレッグ・イーガンの『宇宙消失』や『ディアスポラ』を読んだときはそのように感じた。特に『ディアスポラ』に至っては、数学の専門教育を受けない限りは(それも少なくとも数学専門の学科で学ばない限りは)容易に理解できないほどの専門用語や概念の波に何度も溺れそうになった。それでも最後まで読みきったときにはその圧倒的な世界の広がりに非常な感動を覚えたものだ。おそらくはじめてこのような物語に出会う人は、似たような感想を覚えるのではないか。同時に私のように、途中で挫折しそうになることもあると思う。
 でも、最後まで読んで欲しい。この本にはそれだけの価値が、それだけの豊かさと深みがある。このゆっくりと、そしてとてつもない規模で展開する物語は、ほかでは味わうことの出来ない感動を味わうことができるだろう。



 とかなんとか難しいことを並べてみたり。
 SF読むとこういう小難しいこと書いてみたくなるのって私だけですか?ああ私だけですか。そうですか。
 でも面白いのは本当です。SFあまり読まない人(自分のことはさておき)も読みづらいのも本当だけど。でもほら、女の子出てくるし。バトルもあるし。ハルヒが読めるならきっともーまんたい。うん。あしゅらおうかわいいよあしゅらおう。

 Wikipediaによれば、押井守が映画化狙ってるとか書いてある。まあ天使のたまごとか御先祖様万々歳とかイノセンスが作れたんだし、スカイ・クロラの後また立喰師列伝作るくらいだったら作って欲しいかも。絶対ヒットしないだろうけど。
 下手するとそれでIG潰れるんじゃないか。いやむしろIG潰れる前に作らないと、てとこか。
神山健治に託すのもアリかも。もちろんキャラデザは後藤隆幸で。

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2008.03.02 | Comments(0) | Trackback(0) | 日々のつれづれ

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